2020年8月16日日曜日

残念な篠田節子の作品

新型コロナウィルスは100年に一度の社会変革、という説もあるようなので、もう一度、篠田節子さんのデビュー作ともいえる「絹の変容」(1993年)を読んでみたいと思って、図書館へ行ってみました。というのも、「絹の変容」は八王子を舞台にした物語ですが、蚕が変身して大量発生したあげく、町をパニックに陥れるという架空の物語で、その架空の社会に生きる人々の様子が描かれています。それで、現実のコロナ禍をどのように捉えたらよいか、参考になるかと思っていました。

ところがたまたまその本の隣に、こちらの「冬の光」が並んでいるのを見つけ、2015年発行と新しいので、こちらを借りることにしました。

文庫本にしてはかなり分厚いものです。

篠田さんは私よりほんの少し年下の方ですが、最近は乳がんになったり、お母さんの介護をされたりと、いろいろな体験されているので、その人生体験が著書にどのように反映されたか、興味がありました。

ストーリーの初めは、学生時代に知り合った女性との物語でした。女性の方はフェミニストで、反体制を貫き、卒業後も大学に残り、フランス美術の研究者となり、そしてその世界では高名な研究者となります。彼女は学生時代もその後も、髪をひっつめにして、黒のぴっちりとしたセーターにパンタロンという姿を通していました。よくあるタイプの女性です。

反対に男性の方は、学生運動の時代とは変わり、会社勤めを始めてからは体制側に組み込まれ、地方勤務の時に紹介された家庭的な女性と結婚して、二人の娘の父親になり、順調なサラリーマンの道を歩み、定年を迎えた人です。

この二人、さまざまの偶然が重なり、何回も出会ったり、分かれたり、喧嘩したり、仲直りしたりの繰り返しをしていました。

まぁ、通俗的と言えば、通俗的なストーリーですよね。でもこの辺りの話は、私が生きてきた環境と少しは似た部分があったので、少しは共鳴できるところもありました。

それで、その後はどうなるのかと思っていると、彼女は東北の大学で研究をしていたのですが、ちょうど東日本大震災の時に亡くなってしまい、それをきっかけとして男性の方は四国へ巡礼の旅に出るのでした。

そこまではまぁなんとか話について行けたのですけど、彼はその巡礼の途中に出会った精神を病んだ女性の世話をしているうちに、衝動的に性的関係を持ってしまう。

あれあれ、昔の彼女との話がメインだったと思っているのに、また別の女性が登場してきて、よく分からなくなりました。別に二人の女性を対比させたわけでもなさそうです。

おまけにこの彼は包丁砥ぎが趣味だという話も絡まって、巡礼の旅の途中に、スーパーの駐車場などで包丁砥ぎをしながらお小遣いを稼いでいるのです。なんだかわけが分からなくなってしまいました。

結局、この男性は巡礼の途中に、船の甲板から落ちて亡くなってしまいます。

そして私がこの物語の最大の難だと思うのは、彼の娘が船から飛び込み自殺をした父親の後を追って同じルートで巡礼の旅をするのですが、それがばらばら出現していて、分かりにくい。

いったい作者は何を伝えたかったのか。

ある一人の初老男性の生と性なのか。自立した女性の生き方なのか。

私の記憶に残ったのは、最初の女性や、巡礼の途中に出会った女性とのセックスシーンばかりで、それも男性の立場で描かれているので、あまりに直截的で、気分が悪くなりました。

篠田さんって、こんな物語を書く人だったのかしら。

今までの篠田さんの小説とあまりに違う感覚がして、面食らいました。

文体も「・・・だ」「・・・だ」という短い文章の重なりばかりで、美しくないのです。

もうこの本は早く読み終えたいとばかり思って、ページを繰っていました。

ところが、この小説の評を見ると、かなり評判がよいようです。他の人にとっては面白い小説かもしれませんが、私はダメでした。

この小説が気に入っている方には、申し訳ないですけど。

篠田さんは現代に生きる女性の心情などを描かせたら、とてもぴったりとする作家さんだと思います。どうして初老の男性を主人公にされたのかしら。

でも、この小説は映像の方が良いような気がしました。誰をキャストにしたらよいか分かりませんけど、ヒットしそうな予感がします。

好きな作家さんでも、自分の趣味に合わない本もあるものだ、とつくづく思いました。

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「一日一句」

ザワザワと読書も途切れるセミの声


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